税理士会会報寄稿論文



本論文は東京地方税理士会2004年11月会報に掲載されました。
税理士の善管注意義務違反ないし債務不履行に対する損害賠償請求事件
事件番号 :平成10年(ワ)第483号
事件名 :損害賠償請求
裁判年月日 :平成14年6月12日
裁判所名 :前橋地方裁判所
《事実の概要》
本件は、原告X(以下Xという。)が顧問税理士であった被告Y(以下Yという。)に対し、
(1) 平成7年度の確定申告に当り
@平成2年度に発生したワラント債の売却損を特別損失として計上し、
AXが平成7年11月に取得した土地に係る借入金の支払利息を損金に算入した違法な申告により、税務署から更正処分を受け、過少申告加算税等の損害が発生し、
(2) 上記ワラント債の売却損につき減額更正の請求をしうる旨の説明・助言をせず、Xにその機会を失わせたために還付請求金相当額の損害が発生した
と主張して、委任契約(あるいは準委任契約)の債務不履行に基づく損害賠償請求をした事案である。
《事実の経緯と認定》
原告Xは、建築材料の販売等を目的とする株式会社である。Yは税理士であり、XはYに対し、顧問税理士として昭和53年4月ころから平成9年2月28日までの間、Xの毎年5月1日から翌年4月30日までを事業年度とする各年度の所得申告等の税務申告手続を委任してきた。Yは、平成8年7月1日、Xの平成7年5月1日から平成8年4月30日までの事業年度(平成7年度、申告期限は平成8年7月1日)の法人税等の確定申告を行なった。
Yは、当該確定申告の際、
ア.Xが平成7年11月24日に代金4400万円で購入した土地(以下「本件土地」という。)に係る借入金の支払利子を損金に算入し、
イ.Xが平成7年11月16日に売却した太平洋金属のワラント債及び同月17日に売却した昭和電工のワラント債(以下これらを 「本件ワラント債」という。) の売却損を平成7年度の特別損失として計上した。
Xは、平成10年4月28日付けで、前橋税務署長によって、上記ア.及びイ.の各処理を否認する内容の更正決定(以下「本 件更正決定」という。)を受けた。その更正通知書に記載された更正の理由は、要旨次の通りである。
ウ.新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入額・・・・・110万円
貴社が平成7年11月24日に取得した本件土地4400万円は新規取得土地等に該当しますので、当該取得価額を基準取得価額と して計算した新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入額110万円は、当該事業年度の損金の額に算入されません。
エ.有価証券売却損の損金不算入額・・・・・合計2544万3489円
当該事業年度に有価証券売却損として損金の額に算入した太平洋金属のワラント債売却損1640万6250円は、売却した平成2 年7月16日・17日の属する事業年度の損金として計上すべきものであり、当該事業年度の損金の額に算入されません。
《判決要旨》
1.判決主文
@ 被告は、原告に対し、金1029万4336円及びこれに対する平成11年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払 え。
A原告のその余の請求を棄却する。
B訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
Cこの判決の第1項は仮に執行することができる。
2.争点「被告の注意義務違反」について
(1)本件土地に係る負債利子不算入について・・・Yの主張を容認
本件土地に係る負債利子を損金に算入したYの処理は、当時の調査結果を前提に法令や基本通達を踏まえた税務処理をして確定申告をしたものということができるから、たとえ後にXがこれに関して更正処分等を受けることがあったとしても、Xに対する債務不履行を構成することはできない。
(2)本件ワラント債売却損の損金算入について・・・Yの主張を否認
当該取引の税務上の扱いに関する知識は、税理士として当然に保有・駆使することが期待される程度のものと考えられる。そして、Yは、税理士として原告との間で顧問契約を締結し、毎事業年度の決算書類の作成及び確定申告の代理を行なってきたものであるから、上記取扱いに関する知識を駆使することによって、違法・不当な申告によりXが更正処分や過少申告加算税の賦課処分を受けることがないようにすることはもちろん、過年度の決算・申告の誤りによって過大な所得申告があったことを発見した場合には適切な事後措置を講ずること(本件ワラント債売却損につき減額更正の請求(嘆願)をすべきこと)を助言・指導すべき義務があったということができる。
《控訴審判決》
1.控訴審における追加主張
上記、原審・前橋地方裁判所判決に対し、Yは、敗訴部分を不服として東京高等裁判所に控訴した。すなわち、「@直ちに嘆願書を提出したとしても、前橋税務署長が被控訴人Xに対する調査を実施する時間的余裕がなかったことは明らかであり、職権による減額更正の除斥期間の満了日である平成8年6月30日までに減額更正がされることは、客観的に不可能であった。Aまた、Xは当時資金繰りに窮し、本件ワラント債の売却損を損金として計上しない場合に増加する税額合計1455万0900円を納付することができなかったから、嘆願をするのは無益であった。」との追加主張を行なった。
2.控訴棄却判決
@について、控訴審は、「上記の認定判断はそれほど時日を要するものではないことが認められるから、YがXの経理担当者に説明し、証券会社に照会をさせるなどして早急に資料を整えた上、税務当局に嘆願書を提出するなど所要の措置を講じていれば、税務当局が上記期限までに更正の決定をすることは不可能ではなかったというべきである。」とし、
Aに関しても、「仮に本件ワラント債の売却損を損金として計上しない場合に納付することになる税額(増加分)が1455万0900円であったとしても、前期説示のとおり、Yが適正な申告をし、所要の措置を講じていれば、Xは1456万9600円の還付を受けることができた蓋然性があり、過少申告加算税等を課されることもなかったのであるから、利害得失はおのずから明らかであって、上記主張は失当というほかない。」
として、控訴審は、いずれも、原判決を支持し、本件控訴を理由なしとして棄却する判決を言渡した。
「本案判決に関する評釈」
近年、わが国においては、国民・納税者の権利意識が高まってきており、それに伴ない税理士業務におけるトラブルも増加して、法的手段に訴える損害賠償請求事件も年々増加傾向にある。本案件は、そうしたものの典型的判例であり、争点として、税理士である被告Yが税務の専門家として、税理士法等にも規定されている「善管注意義務」ないし「助言義務」が問われた裁判として、極めて重要な判例である。
1.税理士と依頼者との関係並びに税理士の守るべき義務
まずは、当該裁判の前提となっている税理士と依頼者との関係並びに税理士の守るべき義務について、法律上の規定ないし根拠がどうなっているのかについて、確認しておく必要があると思う。
1)税理士と依頼者との関係
税理士と納税者との関係は、委任(民法643条)又は準委任(民法656条)の関係にあるとされる。すなわち、委任契約とは、「依頼者(委任者)が依頼を受けるも者(受任者)を信頼して、法律行為をするなど・・・・租税の確定行為など・・・事務を処理することを依頼し、受任者がこれを引き受けることによって成立する契約」である。また、準委任契約とは、「法律行為以外の事務・・・例えば、損益計算書や貸借対照表のような財務諸表の作成事務を依頼する行為・・・を委任する場合も、委任と同様に扱う」ということである。
2)税理士の守るべき義務(依頼者との関係に関するもの)
税理士法は、税理士に対し、依頼者との関係について守るべき義務として、1)脱税相談の禁止(税理士法第36条)2) 信用失墜行為の禁止(税理士法第37条)3) 秘密を守る義務(税理士法第38条) 4)助言義務(税理士法第41条の3)を要請している。また、民法の解釈からして5)善管注意義務が課せられているとも解釈されている(注1)。
(注1)善管注意義務
1.における委任契約から敷衍して、「業務委託契約の効力は、税理士法に特別の規定のない限り、民法の委任規定に従う。右契約が成立したときは、税理士は委任の本質に従い、善良なる管理者の注意をもって処理しなければならない(民法644条)。ここにいう「善管の注意義務」とは、債権者の職業、その属する社会的・経済的地位などにおいて一般に要求されるだけの注意をいうと解されるが、税理士のように、受任者として専門的な知識・経験を基礎として、素人から当該事務の委託を引き受けることを営業としている場合、とりわけ当該業務を営業とすることが公認されている場合には、受任者の注意義務は当該事務についての周到な専門家を標準とする高い程度と解される。」とされている。(松沢智著「税理士の職務と責任」93〜94頁)
2.本案判決の意義
以上のような税理士に課せられている法律上の義務について、特に本案判決においては、4)助言義務及 び5)善管注意義務に関して、その適用・解釈に当たっての司法判断が示された判例として注目される。まず、第1審、平成14年6月12日判決前橋地方裁判所においての原告Xの訴えでは、「被告Yは、原告Xとの間の顧問契約及び税務申告の委任契約により、税務の専門家として 税務に関する法令、実務に関する専門知識に基づいて、日常的な相談業務のほか、各期の確定申告書や決算書類を作成する業務を行なっていた。原告Xの確定申告に当たっては、被告Yは、税務に関する法令、実務に関する専門知識をもとに、更正処分や過少申告加算税の賦課処分を受けるなどにより損害を被ることのないように指導及び助言をする義務を負う。」との主張として、上記4)助言義務及び5)善管注意義務の違反を持って、被告Yの債務不履行が損害賠償責任の請求根拠とされた点で、われわれ税理士が業務を遂行するに当り、極めて留意すべき、重要な判断であるといえる。
3.争点 争点としては、(1)本件土地に係る負債利子不算入についての注意義務違反及び(2)本件ワラント債売却の損金算入等に関する注意義務違反とが争われたものである。
争点その1 本件土地に係る負債利子不算入についての注意義務違反
(1)判旨
原審・控訴審ともに@ 本件土地に係る負債利子不算入についての注意義務違反については、被告Yの主張を認め、「本件土地に係る負債利子を損金に算入したYの処理は、当時の調査結果を前提に法令や基本通達を踏まえた税務処理をして確定申告をしたものということができるから、たとえ後にXがこれに関して更正処分等を受けることがあったとしても、Xに対する債務不履行を構成することはできない。」として、原告Xの主張を退けている。
これについては、上記の通り、昭和63年に新設された租税特別措置法62条の2、「法人が各事業年度終了の時において新規取得土地等を有する場合には、新規取得土地等に係る負債の利子は損金の額に算入されない((昭和63年12月31日以後に取得した土地等に適用)。)の適用の適否をめぐって、妥当かどうかが判断のポイントとなったものである。
(2) 原告の主張
Xの主張によれば、「法人が昭和63年12月31日以降に土地を取得した場合は、その土地取得のための借り入れに対する利子は損金に算入されない(租税特別措置法第62条の2第1項)。ところが、Yは、Xが新たに本件土地を取得したことを知りながら、当該措置法62条に反して、上記《事実の経緯》 ア.のとおり、本件土地に係る負債利子を損金に算入する処理をした。」として、被告Yが本件土地に係る負債利子の税務処理について、法令の適用判断に誤りがあったとして、被告Yの注意義務違反を問うたものである。
(3) 被告の主張
このXの主張に対し、Yは、「Xの当時の経理責任者からの報告や現地確認などを踏まえて、法人税基本通達等の一部改正における「新規土地取得等に係る負債の利子の課税の特例(租税特別措置法62条の2第3項第2号イ)」における「一体的に利用される土地等」に関する通達解釈に基づく会計処理をしたものである。なお、YとXの委任契約は平成9年2月28日終了しており、その後の本件更正決定に対して、異議申し立て等の手続をとるべきなのは、Yの後任者であるXの現在の顧問税理士である。それにもかかわらず、Xは、本件更正決定について何ら異議申し立て等の手続をとらないで、全面的に受け入れたのである。したがって、Yに委任契約上の注意義務違反はない。」と抗弁した。
これについて、一審の判断は「ア.負債利子の損金不算入期間は、新規取得土地等を取得した日から4年を経過するまでの期間であるが、新規取得土地等が「長期にわたって使用される建物又は構築物の敷地の用に供された土地等(これらの建物又は構築物と一体的に使用される施設の用に供される土地等を含む。)」に該当する時は、取得の日から「その建物又は構築物がその用に供された日」までが損金不算入期間となる( 租税特別措置法62条の2第3項2号イ)。イ.「建物等と一体的に使用される土地等」の範囲につき、法人税法基本通達では、「建物等と機能的及び地理的な一体性を有して事業の用に供される土地等をいう」旨が明らかにされ、これについてさらに、「機能的一体性及び地理的な一体性について、極めて限定的に解することは、この制度の目的、趣旨、最近の都会地における土地事情からみても実情にそぐわないと考えられる。・・・地理的一体性については、特定建物等の敷地と接していることまで要求するのではなく、特定建物等又はこれと一体的に使用される施設の用途又は使用目的に応じた一定の地区内での地域的概念として考えるべきである」との解説がされている。
上記取り扱いを認定した本件土地の取得経緯や使用状況等に関するYの調査結果に即してみると、Xが本件土地を取得した時点(平成7年11月26日)において、本件土地は、当時のX建材部事務所・倉庫の駐車場として利用されていたことに加え、平成8年4月以降には新たにXが賃貸する予定の新事務所・倉庫の所在地に隣接して引き続き駐車場として利用されることが見込まれていたというのであるから、Yの調査結果を前提とする限り、本件土地は、上記ア.およびイ.の要件を充たす余地があることは否定できない。」として上記のとおりYの抗弁を支持する判断を示した。
(4)評釈
当該争点となった本件土地に係る負債利子不算入規定(租税特別措置法62条の2第1項)については、その前提として、我が国の経済がバブル期の頂点にあった時期でもあり、地価が高騰し、その抑制策として、土地取引の総量規制がかけられ、一定規模の土地の所有については、届出制が義務付けられたり、相続税の基礎控除や株式評価における法人税額控除の規制などの税制面での抑制策が次々と打ち出された時期でもある。したがって、本件土地に係る負債利子の損金不算入規定もかかる意味合いで立法された経緯があると思われる。
本案において、争点となったのは、新規取得土地等を取得した場合においても、負債利子の損金不算入期間は、新規取得土地等を取得した日から4年を経過するまでの期間であるが、長期にわたって使用される建物又は構築物の敷地の用に供された土地等(これらの建物又は構築物と一体的に使用される施設の用に供される土地等を含む。)」に該当する時は、取得の日から「その建物又は構築物がその用に供された日」までが損金不算入期間となる( 租税特別措置法62条の2第3項2号イ)ことから、この規定に基づいてされたYの税務処理は次のような解釈から妥当と判示された。
「建物等と一体的に使用される土地等」の範囲につき、法人税法基本通達では、「建物等と機能的及び地理的な一体性を有して事業の用に供される土地等をいう」旨が明らかにされ、これについてさらに、「機能的一体性及び地理的な一体性について、極めて限定的に解することは、この制度の目的、趣旨、最近の都会地における土地事情からみても実情にそぐわないと考えられる。・・・地理的一体性については、特定建物等の敷地と接していることまで要求するのではなく、特定建物等又はこれと一体的に使用される施設の用途又は使用目的に応じた一定の地区内での地域的概念として考えるべきである」との解説がされている。
上記取り扱いを認定した本件土地の取得経緯や使用状況等に関するYの調査結果に即してみると、Xが本件土地を取得した時点(平成7年11月26日)において、本件土地は、当時のX建材部事務所・倉庫の駐車場として利用されていたことに加え、平成8年4月以降には新たにXが賃貸する予定の新事務所・倉庫の所在地に隣接して引き続き駐車場として利用されることが見込まれていたというのであるから、Yの調査結果を前提とする限り、本件土地は、上記ア.およびイ.の要件を充たす余地があることは否定できない。」として上記のとおりYの抗弁を支持する判断を示した。
この原審の判決については、原告Xからの反論ないし反訴はなかったため、被告Yの主張が認められたことになる。しかし、思うに、「通達は、行政組織の内部では拘束力はもつが、国民に対して拘束力をもつ法規ではなく、裁判所もそれに拘束されない。したがって、通達は租税法の法源ではない」(金子宏著「租税法」95頁)との指摘から鑑みるに、司法判断として、法人税法基本通達及びその解説をもってその根拠としていること、及び「Yの調査結果を前提とする限り、本件土地は、上記ア.およびイ.の要件を充たす余地があることは否定できない。」として、単なる書証のみでの検証にとどまり、裁判所の職権によってその真偽を検証することの手続を欠いていたのではないか、あるいは、それに対する原告Xの反証がみられないのは、やはり、それを認めたということなのであろうか?若干の疑問が残るところでもある。しかしながら、裁判手続としては、こうした反証ないし反訴がなかったという事実に立脚する限り、また、かかる基本通達及びその解説に対抗する以上の反論が提起し得なかった点で、原告Xの当該部分についての訴えは退けられたことには変わりはないであろう。
なお、Yの抗弁の後段「なお、YとXの委任契約は平成9年2月28日終了しており、その後の本件更正決定に対して、異議申し立て等の手続をとるべきなのは、Yの後任者であるXの現在の顧問税理士である。それにもかかわらず、Xは、本件更正決定について何ら異議申し立て等の手続をとらないで、全面的に受け入れたのである。したがって、Yに委任契約上の注意義務違反はない。」との主張については、判決は何ら触れられていない。時系列的に見て、Xが平成7年11月26日に取得した土地に係る借入金の支払利息を損金に算入した申告は、平成8年7月1日、Xの平成7年5月1日から平成8年4月30日までの事業年度(平成7年度、申告期限は平成8年7月1日)についてのものであった。当該申告に対し、平成10年4月28日付けで、前橋税務署長によって、上記各処理を否認する内容の更正決定を受けたものである。
これについて鑑みるに、被告Yの主張のように当該税務処理に係る更正の請求期間は、平成9年6月30日であり、YがXから顧問契約解除の通知を受けたのは、それ以前の平成9年2月28日であり、前橋税務署から本案の対象となるXの申告について、過誤の指摘を受けたのがその後の平成10年1月であったという事実関係からすると、争点2.とは異なり、当該案件に対してYが更正の請求をすることは物理的に不可能であり、平成10年4月28日の更正決定を受けて、それに対し2ヶ月以内に異議申し立てする立場にあったのは、Xおよび後任の税理士であることには疑いなく、その主張は、容認されたものと理解できる。
争点その2 本件ワラント債売却の損金算入等に関する注意義務違反
(1) 原告の主張
Xの主張によれば、「有価証券の売却損は、本来これが発生した事業年度において損金として計上すべきものである。したがって、本件ワラント債の売却損は平成2年度の申告期限である平成3年6月30日から5年間は税務署長に対する嘆願の形式で減額更正を求めることができる。Yは、5年経過前の平成8年6月19日以前に、本件ワラント債について、平成2年7月に売却損が生じていることを知っていたのに、
@平成7年度の申告において、本件ワラント債の売却損を計上し、ワラント債の売却損については平成2年度の申告に関して減額更正ができることを原告に説明し、その申立てを指導すべきであるにもかかわらず、これを怠った(そのために5年間を経過しその機会を失った)という注意義務違反がある。
Aなお、Xが減額更正の請求をすれば、嘆願といえども正当なものであれば税務署長はこれに応ずる義務があるから、認められれた可能性は高かった。また、Xは、異議申し立てをしていないが、これは、平成10年1月に税務署から平成7年度の申告の誤りを指摘されたときから、その処理に関する税務署との協議等の一切をYに任せていたからである。」
(2) 被告の主張
@ Yが、本件ワラント債が売却されたのを知ったのは、平成7年度の確定申告書提出の直前である平成8年6月28日過ぎに当時の経理担当者から報告を受けた際である。Yは、本件ワラント債の売却損についてXとの間の委任契約に基づき平成7年度の特別損失として計上した上、平成8年6月28日に確定申告書を作成し、X代表者に説明し、承認の押捺を受けて、法定提出期限である同年7月1日に前橋税務署に適法に提出した。
A Yの上記処理は、申告期限から1年以上経過した時期において、平成3年4月期決算という粉飾した事業年度に遡って修正できないところから、当期である平成8年4月期決算において経費の計上漏れという仮想経理の典型例である特別損失としての計上という唯一採りうる方法で修正したものであり、法人税法129条第2項の趣旨にも合致するものであるから、適法であり、被告に委任契約上の注意義務違反はない。
B また、減額更正の請求は、申告期限から1年経過後はXの権利ではなく税務署に対する嘆願の制度にすぎない。原告から減額更正の請求を受けたところで、減額更正をするかしないかは、税務署長の裁量事項である。Yが本件ワラント債の売却を知った時点において、申告期限から1年経過していたものであり、Xとの顧問契約の内容として、減額更正の嘆願の制度についての説明、申立て指導の義務などは生じない。
C Yの上記処理は、税務署長に対する減額更正の嘆願の請求をしたことと同様の効果をもつものであり、損金処理を認めず増額更正した本件更正決定に対してXが異議申し立て等の手続をすれば、減額更正される可能性は十分にあった。このように減額更正される可能性を残したXの処理には、Xとの間の税務顧問契約上の注意期義務違反は何ら認められない。
D そして、本件更正決定に対して異議申し立て等の手続をとるべきなのは、被告の後任者である現在のXの顧問税理士である。にもかかわらず、何ら異議申し立て等の手続を採ることなく本件更正決定を全面的に受け入れたという事実にこそ着目すべきである。したがって、Yに委任契約上の注意義務違反はない。
(3)判決
被告Yの主張を全面否認。
(4)判旨及びその評釈
@平成7年度の確定申告の適法性
Yの主張によれば、「申告期限から1年以上経過した時期において、平成3年4月期決算という粉飾した事業年度に遡って修正できないところから、当期である平成8年4月期決算において経費の計上漏れという仮想経理の典型例である特別損失としての計上という唯一採りうる方法で修正したものであり、法人税法129条第2項の趣旨にも合致するものであるから、適法」であるとのことである。
法人税法129条第2項は、「内国法人の提出した確定申告書・・(省略)・・に記載された各事業年度の所得の金額・・(省略)・・が当該事業年度・・(省略)・・の課税標準とされるべき所得の金額・・(省略)・・を超えている場合において、その超える金額のうちに事実を仮装して経理したところに基づくものがあるときは、税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税・・(省略)・・に対する法人税につき、当該事実を仮装して経理した内国法人が当該事業年度・・(省略)・・の各事業年度・・(省略)・・において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該修正の経理をした事業年度の確定申告書・・(省略)・・を提出するまでの間は、更正をしないことができる。」旨規定しており、同法第六十一条の二は、「内国法人が有価証券の譲渡(省略)をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額(省略)又は譲渡損失額(省略)は、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」旨規定している。
Yの主張の根拠法令は、法人税法129条第2項のみを根拠としているが、判決では、さらに国税通則法70条2項及び国税通則法23条1項をも解釈・適用し、「税務署長宛に減額更正を求める嘆願書を提出することになる。」とし、さらに、「納税者は過大な申告をした場合には法定申告期限から1年間は更正請求ができるが(国税通則法23条1項)、これを経過しても法定申告期限から5年が経過していない場合には、税務署長は減額更正することができるため(国税通則法70条2項)である。」。」と判示し、当該課税処理についての正当なあり方を示して、Yの採った課税処理が誤りであったことを指摘している。また、Yの採った「有価証券の譲渡損益はその譲渡に係る契約をした日の属する事業年度で計上しなければならない(法人税法61条の2第1項)から、平成7年度の申告において平成2年度に発生した売却損を計上することはできない。」ことから、当該税務処理は、平成2年度に発生した有価証券売却損を平成7年度の損金に算入した点において法人税法61条の2第1項に違反し、同法129条2項に規定する修正の経理を含むものではないことが明らかである。」として、Yの主張を退けている。
また、同時に、「Yが本件ワラント債の売却損につき採った処置は税務署長に対する減額更正の嘆願の請求をしたことと同様の効果を持つものであり、損金処理を認めず増額更正した本件更正決定に対してXが異議申立て等の手続をすれば、減額更正される可能性は十分にあったとして、注意義務違反はない旨の主張をするが、Yの上記処理が法人税法61条の2第1項に違反し、同法129条2項に規定する修正の経理を含むものでないことは先に説示したとおりであるから、これを採用することはできない。」として、Yの主張を退けている。
A「善管注意義務」・「助言義務」の適否とその内容および程度についての司法判断
さらに「上記扱いに関する知識は、税理士として当然に保有・駆使することが期待される程度のものと考えられる。そして、Yは、税理士として原告との間で顧問契約を締結し、毎事業年度の決算書類の作成及び確定申告の代理を行なってきたものであるから、上記取扱いに関する知識を駆使することによって、違法・不当な申告によりXが更正処分や過少申告加算税の賦課処分を受けることがないようにすることはもちろん、過年度の決算・申告の誤りによって過大な所得申告があったことを発見した場合には適切な事後措置を講ずること(本件ワラント債売却損につき減額更正の請求(嘆願)をすべきこと)を助言・指導すべき義務があったということができる。」とし、「法定申告期限(平成8年7月1日)前の同年6月15日ころに平成2年度に計上すべきであった本件ワラント債売却損が存在することを知っていたために検討の時間的余裕が十分なかったことは窺われるものの、その一方で、上記の取扱いに関する知識は高度に専門的な部類に属するものではない上、当該売却損の発生に係る取引事実については、Xにおいて殊更にこれを隠蔽する仮装経理がされていたような形跡はなく、Xの経理担当者に直ちに証券会社に対する照会等の調査を指示することによって早急にほぼ確実な裏付け資料を入手しうる性質のものであったことについてXに助言・指導がなかったことは、上記顧問契約上の義務に違反した債務不履行に当たるというべきである。」として、原告Xの主張を全面的に認める判決となった。
既述のように、「善管の注意義務」とは、「その属する社会的・経済的地位などにおいて一般に要求されるだけの注意をいうと解されるが、税理士のように、受任者として専門的な知識・経験を基礎として、素人から当該事務の委託を引き受けることを営業としている場合、・・(中略)・・受任者の注意義務は当該事務についての周到な専門家を標準とする高い程度と解される。」とされていることからすれば、「上記の取扱いに関する知識は高度に専門的な部類に属するものではない上・・・(中略)・・・Xの経理担当者に直ちに証券会社に対する照会等の調査を指示することによって早急にほぼ確実な裏付け資料を入手しうる性質のものであったことについてXに助言・指導がなかったことは、上記顧問契約上の義務に違反した債務不履行に当たるというべきである。」との評価は妥当といえよう。
さらに言えば、当該判決において、「過年度の決算・申告の誤りによって過大な所得申告があったことを発見した場合には適切な事後措置を講ずること(本件ワラント債売却損につき減額更正の請求(嘆願)をすべきこと)を助言・指導すべき義務」の程度について、上記扱いに関する知識は、「税理士として当然に保有・駆使することが期待される程度のもの」と考えられ、「高度に専門的な部類に属するものではない」と判示している点で、税理士の課せられている「善管の注意義務」の範囲がどの程度の高度なものか、司法の判断の一端を示したものとして注目される。また、「@減額更正の請求は、申告期限から1年経過後はXの権利ではなく税務署に対する嘆願の制度にすぎない。原告から減額更正の請求を受けたところで、減額更正をするかしないかは、税務署長の裁量事項である。Yが本件ワラント債の売却を知った時点において、申告期限から1年経過していたものであり、Xとの顧問契約の内容として、減額更正の嘆願の制度についての説明、申立て指導の義務などは生じない。AYの上記処理は、税務署長に対する減額更正の嘆願の請求をしたことと同様の効果をもつものであり、損金処理を認めず増額更正した本件更正決定に対してXが異議申し立て等の手続をすれば、減額更正される可能性は十分にあった。このように減額更正される可能性を残したXの処理には、Xとの間の税務顧問契約上の注意期義務違反は何ら認められない。」とYは主張する。
しかし、「Yは、税理士として原告との間で顧問契約を締結し、毎事業年度の決算書類の作成及び確定申告の代理を行なってきたものであるから、上記取扱いに関する知識を駆使することによって、違法・不当な申告によりXが更正処分や過少申告加算税の賦課処分を受けることがないようにすることはもちろん、過年度の決算・申告の誤りによって過大な所得申告があったことを発見した場合には適切な事後措置を講ずること(本件ワラント債売却損につき減額更正の請求(嘆願)をすべきこと)を助言・指導すべき義務があったということができる。」として、「Yは、法定申告期限(平成8年7月1日)前の同年6月15日ころに平成2年度に計上すべきであった本件ワラント債売却損が存在することを知っていたために検討の時間的余裕が十分なかったことは窺われるものの、その一方で、上記@の取扱いに関する知識は高度に専門的な部類に属するものではない上、当該売却損の発生に係る取引事実については、Xにおいて殊更にこれを隠蔽する仮装経理がされていたような形跡はなく、Xの経理担当者に直ちに証券会社に対する照会等の調査を指示することによって早急にほぼ確実な裏付け資料を入手しうる性質のものであったことについてXに助言・指導がなかったことは、上記顧問契約上の義務に違反した債務不履行に当たるというべきである。」として、Yの主張を真っ向から否定している。
さらに「Yは、減額更正・嘆願の制度を知っており、その除籍期間が間もなく満了することも知りつつ、上記処理をとったかのような供述をするが、上記処理は当時既に文献等で説明がなされていた取扱いに明らかに反するものであるにもかかわらず、Yは、Xの経理担当者等にそうした方法をあえて選択する理由を全く説明していないことに加え、平成10年2月当時にYがXに対してした上記処理に関する回答内容を考慮すると、上記供述を採用することはできない。」とし、「Yは、Yが本件ワラント債の売却損につき採った処置は税務署長に対する減額更正の嘆願の請求をしたことと同様の効果を持つものであり、損金処理を認めず増額更正した本件更正決定に対してXが異議申立て等の手続をすれば、減額更正される可能性は十分にあったとして、注意義務違反はない旨の主張をするが、Yの上記処理が法人税法61条の2第1項に違反し、 同法129条2項に規定する修正の経理を含むものでないことは先に説示したとおりであるから、これを採用することはできない。」として、Yの主張を退けている。
B当該司法判断の妥当性
1)更正嘆願した場合の更正の実務的可能性ないし蓋然性
判決は、「売却損の認定及びそれに伴なう税額の更正の決定は比較的容易であって、認定判断はそれほど時日を要するものではないと認められるから、・・・税務当局が上記期限までに更正の決定をすることは不可能ではなかったというべきである。」と判示している。しかし、仮にXがYの指導により、減額更正の請求(嘆願)採ったとして、果たして、判決のいうように税務署長による減額更正が行なわれるまでの期間は、その発覚・確定から最大で12日間しかなかったのに、実務上それは可能であったのであろうか?
減額更正の嘆願を求める手続は、ア.決算で修正経理を行なう(法人税法129条第2項)(注2)、イ.修正経理した決算に基づく確定申告書を提出する(法法129条第2項)、ウ.減額更正の嘆願書を提出する、エ.税務調査を受けた上で是認されることを要する(国税通則法24条) (注3)、オ.更正通知書の送達を受ける(国通法28条)といったプロセスが必要である。このためには、単に仮装経理を行なった年度の申告の更正の嘆願を求めるだけでは足りず、修正年度の決算・申告の確定を要するのみならず、課税庁側でも相当の手続が必要と考えられ、少なくとも更正の判断が下されるまで、数ヶ月かかるものと推定される。また、納税者側においても、仮装経理の実態と修正年度までの架空資産の流れの解明、素明資料の整理・作成、修正年度における決算・申告にかかる時間等を思料すると果たして、12日間という短期間でこれら一連の手続が可能であり、蓋然性があるとする判決は、妥当であろうか、多分に疑問が残るものである。さらに、新潟地裁昭和62年6月25日判決では、当該期限の10日前に「修正の経理」をした確定申告を提出した場合に、当該年度の減額更正はできないとした税務署長の処分を適法と認めている。しかも、この事件では、当該仮装経理の処理について、1年程度前から当該税務署長に申し出ていたものであり、当該税務署長も当該事案の事実関係をよく承知していたというものである。当該判例からして、本件において、Yの指導・助言によりXが嘆願書を提出しても、平成2年度の減額更正が受けられたかは、甚だ疑わしい(注4)。
(注2)修正経理の方法についての税法上の定義はないが、一般に公正妥当と認められる会計処理基準をいい、過年度の仮装経理による損益の修正は企業会計原則に則れば、特別損益項目中で前期損益損等と計上する(大阪地裁平成元年6月29日判決)。
(注3)減額更正の嘆願を求める手続は法定手続ではないが、国税通則法24条によれば、「税務署長は、納税申告書の提出があつた場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。」とされ、更正は調査が行なわれることが前提となっている。ここでいう調査とは、総額主義の観点から、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が過大かどうかを調査することとされている。また、調査の方法には、立会い調査と書面調査とがあるが、課税標準等又は税額等を減少しようとする場合には立会調査が必要となる。このため相当の時間が必要である。
(注4)品川芳宣 FOUCUS「租税判例紹介・評釈」税研 2003.9 82頁
2)仮装経理による誤処理であるか否かについての判断及びその可能性
判決では、「甲、乙、証人Aの証言、Y本人の供述、関連する法令等を総合すると、平成2年度に発生した有価証券売却損が平成7年度申告の時点で判明した場合における税務上の取り扱いは、・・・ア.有価証券の譲渡損益はその譲渡に係る契約をした日の属する事業年度で計上しなければならない(法人税法61条の2第1項)から、平成7年度の申告において平成2年度に発生した売却損を計上することはできない。・・・イ.この場合には、a.仮装経理に基づく過大申告につき修正の経理をした上で、修正経理で特別損失と計上した金額を法人税申告書別表四で加算した確定申告書を提出し(法人税法129条2項)、b.税務署長宛に減額更正(国税通則法70条2項)を求める嘆願書を提出することになる(納税者は過大な申告をした場合には法定申告期限から1年間は更正請求ができるが(国税通則法23条1項)、これを経過しても法定申告期限から5年が経過していない場合には、税務署長は減額更正することができるため(国税通則法70条2項)である。)。ウ.上記イ.Aの修正の経理は、損益計算書中の財務諸表(損益計算書)の特別損益の項目において、前期損益修正損等として仮装経理を修正してその事実を明らかにすべきものと理解されている。」として、「当該税務処理は、平成2年度に発生した有価証券売却損を平成7年度の損金に算入した点において法人税法61条の2第1項に違反し、同法129条2項に規定する修正の経理を含むものではないことが明らかである。」とし「当該売却損の発生に係る取引事実については、Xにおいて殊更にこれを隠蔽する仮装経理がされていたような形跡はなく」として、当該税務処理が、仮装経理による誤処理ではない点を明示している。この点で法人税法70条の「仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除」規定の適用はないものとされる。
ちなみに、当該「仮装経理」は粉飾決算に対する罰則条項として位置づけられており、粉飾決算に該当するかどうかは主観が影響するので、本件誤処理についても、仮装経理と認定される可能性もあり、当該判決についても「仮装経理に基づく過大申告につき修正の経理をした確定申告書を提出し、税務署長宛に減額更正を求める嘆願書を提出することになる。」との前提を示していることからも、その可能性はあったことは、読み取れよう。この場合、更正後の還付法人税は、全額が直ちに還付されず、更正の日を含む事業年度1年以内に開始した事業年度分の確定法人税は還付されるが、残りは以後5年間の各事業年度に納付すべき法人税があれば、この法人税から順次控除されることとなるので、過大納付税金そのものが損害額となりえず、金利相当を控除するか、あるいは、5年経過後に損害額が確定することになる。(注5)
(注5) 高野角司・見富深也共著「ケース・スタディによる税理士のための税賠事故とその予防策」7〜12頁
3)減額更正の嘆願について債務不履行であるとの当該司法判断は、法的妥当性はあるのか? 「租税法律主義」の立場からの批判
当該司法判断は、例えその処理判断に時間的余裕がなくても、税理士として、善管注意義務を果たすには、本来の税法の解釈・適用を厳格にすべきであり(適正手続=Due Processの厳格適用)、それを迂回した処理は、司法として認めることはできない旨を明確にしたものと解することができる。ただし、ここで言及されているように「Yは、減額更正・嘆願の制度を知っており、その除籍期間が間もなく満了することも知りつつ、上記処理をとったかのような供述をするが、上記処理は当時既に文献等で説明がなされていた取扱いに明らかに反するものである」として、本来の法的手続きとは必ずしもいえない「嘆願の制度」をも、「適正手続」の一部であるとする点、課税庁側ではなく民間による「逐条解説」やその他の参考文献にも相当の正当性、法的拘束性を認めた判断を示した点については、いささか行き過ぎであるように思われる。
そもそも、「嘆願の制度」というものなどは、法制上も存在しないものであり、課税庁と納税者ないしわれわれ税理士との間で慣習的に行なわれてきた法的手続き以外での単なる「お上へのお願い」といった程度のものであり、税務署も租税行政を円滑に遂行するため、「本来の正当な手続ではないので邪道なのだけれど、そうした方がいいですよ」程度のものとして、いわば公にはできないけれど、内々の文書として、「嘆願書」というものを位置づけてきたという経緯があるものとの税実務上の認識がある。そうした、「本来の手続」によらないところの非公式な手続についてまで、司法当局が「制度」とまで言い切って果たして、妥当なのであろうか?法令の文理解釈を超えて、類推解釈あるいは拡張解釈になってはいないであろうか?(注5)もっとも、国税通則法70条2項「法定申告期限から5年が経過していない場合には、税務署長は減額更正することができる」との規定につき、納税者サイドから税務署長にその適用を促すには「嘆願書」という以外の手段はなく、それが、実務慣例になっていることは、確かではあるが・・・。
また、通達行政の弊害は、従来より多くの学識経験者や専門家から指摘されてきており、本来、法令に記載のない税務手続については、 納税者や司法当局に対して、法的拘束力の及ばないこれらの通達(注7)、ましてやそれについての非公式な文献や解説をもってして、司法独自の判断とするという判示の仕方、さらには、そうした法的根拠の希薄なものに根拠を見出し、もって、被告Yに全面的に損害賠償責任を負わせるという当該司法判断は、「租税法律主義」の立場からして、多分に疑問が残るといわざるを得ない。そのため、当該判決における損害額の認定において、依頼者である原告Xについても、その過失責任を認め「過失相殺」として、損害額の40%を減額することとしている点は、留意すべきであろう。ただし、そのことの判断が司法の下したものである限りにおいては、法律上既判力が認められることになるので、判例として、他の司法判断及び税務行政運営にも一定の法的拘束力を持ち、影響を持つことになるのは、否定し得ないことであろう。また、当該判断に妥当性があるとするなら、法的安定性・予測可能性の見地から、今後、法制化も必要であろう(注8)。いずれにしても、以上の点で、われわれ税理士が、爾後、業務を遂行するに当り、極めて留意すべき、重要な判決であるといえる。
(注6)金子宏著「租税法(補正版)」100頁「租税法は侵害規範であり、法的安定性の要請が強くはたらくから、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行なうことは許されない。
(注7) 同掲書95頁「通達は、上級行政庁の下級行政庁への命令であり、行政組織内部では拘束力はもつが、国民に対して拘束力をもつ法規ではなく、裁判所もそれに拘束されない。したがって、通達は租税法の法源ではない(最判昭和38年12月24日月報10巻2号381頁)。」
(注8)法人税に係る更正の期間制限の平成16年度改正について、「@欠損金額に係る更正の期間制限を7年(現行5年)に延長する。A脱税以外の場合の過少申告に係る更正の期間制限を5年(現行3年)に延長する。」平成16年度税制改正の要綱(平成16年1月16日閣議決定)参照。
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