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8.税務調査の実際・・・・過去の論稿2
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平成14年3月1日発行「寺門興隆 3月号」掲載論稿
http://www.kohzansha.com/backno0203.htm
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「歴代住職墓碑課税事件の大逆転」・・・
寺院の伝統を無視した処分ほ国税当局が撤回した訳
東京地方税理士会 神奈川支部所属
税理士 大埜治仁
既に読まれた読者の方もおられると思うが、先月号においてご報告したように、去る平成12年11月28日、
神奈川県内所管の税務署において、歴代住職の墓碑について東京国税局からの判断が示達された旨の緊急
レポートを公開した。 ところが、今回は、今月に入って、その処分について、一転して撤回する旨の処分をする
こととなったという展開となったのである。
何故にこのような顛末となったのか。この件に関しては、反響も大きく全国の既存の寺院については、相当の
影響があるものと理解している。 したがって、そこでの当方の責任も踏まえ、今回はその経緯を報告するもの
である。
1.平成12年11月28日示達の処分について
その趣旨としては、次のとおりである。いわゆる既存宗教法人の所有する歴代住職の墓において、先代住職
の死去に伴い新たに墓地が建立された。この墓碑の施工費用について、当該宗教法人の損金として経理して
いたところ、当局より、当該費用は今回責任役員を引き継いだ新住職の所有に属すべきものであり、したがって、
当該費用は新住職の認定賞与にあたるとして、源泉所得税の課税対象であるとして税務認定が指摘されたとい
う内容のものである。
その課税根拠としては、法人税法基本通達9−7−19「社葬費用」の準用に依拠するものであった。
当該通達には
「法人が、その役員又は使用人が死亡したため社葬を行い、その費用を負担した場合において、その社葬を行な
うことが社会通念上相当と認められるときは、その負担した金額のうち社葬のために通常要すると認められる部分
の金額は、その支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができるものとする。(注)会葬者が持
参した香典を法人の収入としないで遺族の収入としたときは、これを認める。」
さらに、当該通達に関する解説として、逐条解説があり、次のような説明がなされている。
「ここでいう「社葬を行うことが社会通念上相当」かどうかは、死亡した役員等の死亡の事情、生前における当該法
人に対する貢献度合等を総合勘案して判断することになるが、「社葬のために通常要すると認められる金額」の判
断については、例えば密葬の費用、墓石、仏壇、位牌等の費用、さらにいわゆる院号を受けるための費用など明ら
かに故人の遺族が負担すべきであると認められる費用は、これに該当しないと解すべきであろう。従って、通常は、
会葬のための費用がここでいう社葬のために通常要する費用として認められるということであろうと思われる。以下、
省略」
したがって、当局の根拠とする見解としては、ここで言われている「・・・例えば密葬の費用、墓石、仏壇、位牌等
の費用、さらにいわゆる院号を受けるための費用など明らかに故人の遺族が負担すべきであると認められる費用
は、これに該当しないと解すべきであろう。・・・」のくだりに求められるといえよう。 しかしながら当方としては、この
解釈はあくまで社会一般における株式や有限などの会社法人における扱いであり、歴代住職の墓を自ら永代にわ
たり所有管理してきている既存の宗教法人にあっては、当該解釈は相当ではないとの判断から所轄税務署に対し
て抗議したものである。
これに対し、税務署担当統括官はこの件に関しての扱いは国税局の判断に委ねる旨の答弁があり、1ヶ月半ほど
の後、東京国税局からの判断があったとして、以下の基準を満たした場合においてのみ、法人の損金算入を認める
旨の判断を言渡された。
@ 寺の教義ないし寺院規則により、歴代住職の埋葬および墓地の建立についての扱いが明確に謳われていること。
あるいは、責任役員会ないし総代会等寺院の決議機関において、その旨の決定をしていること。 A 歴代住職の墓
が信仰の対象として、定期的かつ継続的に壇信徒を集めてその墓前において、供養する儀式がおこなわれているこ
と。したがって、今回、当方がこれらの要件を満たしていないとの理由により、先代住職の墓碑建立費用については、
当該宗教法人において、後継新住職の認定賞与として源泉所得税の課税対象となる旨の判断がくだされたのであった。
2.一転して当該認定課税が撤回された
ところが、この税務認定が言渡され、当山住職は、担当調査官から具体的更正決定の内容の金額まで報告を受
け、それに対する納税の準備までしていたにもかかわらず、新年になっても一向に税務署からの通知は届かなかっ
た。その後、1月17日になって、私のもとへ担当統括官から一本の電話が入った。
「申し訳ないのですが、昨年、そちら様に申し上げた更正の内容について国税当局よりクレームがありました。つきま
しては、近日中に住職と当税務署へご足労願いませんでしょうか。処分の内容につきましては、お越しの際、当方か
ら直接お話いたします。」とのことだった。
私は早速住職に連絡をとり、次回来署の予定を打ち合わせた。とにかく、なぜ、この時点で先回示された判断につい
てクレームがついたのであろうか? 処分が言渡された11月28日時点では、当方でも、念を押して処分内容に相違
ないか否かはっきりと確認したはずである・・・。
住職にして言わしめれば、「すでに定期預金を取り崩して、納税の準備までしていたのに、一体納税者は何を信じて
行動したらいいのか困惑するばかり」である。まさに、租税行政上の問題として、今回の課税庁の行動は、われわれ
納税者たる国民の予測可能性を侵害し、禁反言の法理(信義誠実の原則ともいい、一旦約束したことは後で翻ってあ
れは間違いだったということは言えないという法律解釈上の大原則)という法律上のルールを無視したものと非難され
ても仕方のないことなのではないだろうか? とにかく、税務署に再度出向いて、ことの真相を明らかにしなければなら
ない。1月24日私は住職とともに所轄税務署へ向かった。
3.処分撤回の理由
さて、税務署へ着くと担当部門(源泉徴収部門)へ行き担当の調査官と統括が出迎えた。早速、担当統括官より、
今回「お呼びたて」した理由が説明された。
@ 先回11月28日に当税務署内において行なった課税処分については、これを白紙撤回する。
A 理由は、国税当局よりクレームがついたこと。
B その内容としては、前回指摘した課税処分について、所轄のした判断において、瑕疵があったものと認められること。
すなわち、問題となっている 墓碑建立費用についていずれの主張(税務署側の見解も納税者側の主張も)立証する
には(すなわち、法人の費用であるとする場合、その事業関連性の立証。個人の負担であるとするならその間の立証)
著しく困難であり、課税認定を行なうに足るまでの十分なものとは言えない。したがって、今回の課税認定はないもの
として見送る。 課税行政上、法令・通達によってカバーできる範囲は自ずと限られている。それが故、課税実務上グ
レーゾーンが発生する。 今回の事例では、法人税法基本通達9−7−19「社葬費用」の準用が考えられた。しかし、
これをそのまま準用するには、困難であり、事実認定には至らない。というものであった。
当方の主張として、既に述べたように、この解釈はあくまで社会一般における株式や有限などの会社法人における
扱いであり、歴代住職の墓を自ら永代にわたり所有管理してきている既存の宗教法人にあっては、当該解釈は相当
ではないとしたが、これについての直接的な容認の姿勢は見られなかったものの実質的には、婉曲的にこの主張を
容認したものと解釈されよう。
当方としては、住職の見解にあったように信義誠実の原則上疑問はあったものの処分自体は当方の主張が通った
ものとして、受忍することで今回の税務調査には終止符を打つこととした。ただし、確認事項として、先回提示された
税務認定上の判断基準については 一切変更はないとのことであった。
しかし、いずれにせよ既に先回の拙稿の主張でも触れたように、税務署側にも課税を立証するにたる根拠を提示す
る責任があることは免れないことである。 かかる適性手続き(=デュー・プロセスDue Process)を欠いた処分は不当と
いう当局の判断があったものと解して差し支えないところと思われる。 曰く、「疑わしきは、納税者の利益に」(=in dubio contrafiscum)が、今回、税の現場で最終的な結果を見たということであろう。 ただし、今回の処分はあくまで
も、当該案件についてのものであり、爾後、同様の事例があったとしても、それは、個々に判断をしていくという当局
の方針に変更はない旨ご留意されたい。
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